ウイルスの変異、進化について雑感

NATURE(自然)

 コロナウイルス SARS-CoV-2は次々と変異して既存株からD614G変異株、N501Y変異株、……へと置き換わっている。
 ウイルスは生物とみなされていないが、リアルタイムで進化を見ているような気分。
 かつてネアンデルタール人が「我々」(=ホモ・サピエンス[・サピエンス])に置き換わっていったのも似たようなものだろうか、「我々」のほうが飢えや疫病に強かったのだろうか、サバイバル術およびその伝播力が高かったのだろうか、等々ボンヤリ考えながら1年以上経過した。

 そんな中引っ掛かっていることがある。
 昨年末の記事で少し触れたことだが、イギリスと南アフリカという遠く離れたところで、(現在日本で大半を占める)N501Y変異株が現れ、ブラジルでも現れている。
 D614G変異株の時はヨーロッパから世界中への拡散だったので何ら不思議ではないが、N501Y変異株はヨーロッパ、アフリカ、南米と各々遠く離れた場所で、別系統ながら同じ頃同じように変異している。

 ランダムに起こるコピー・ミスで偶然こうなったとは思えない。
 そうかと言って3地域で往来があって伝播したとか、3地域でワクチン開発が行われてウイルスが同じように免疫逃避した、というわけでもなさそうだ。
 一定時間経ったら、この部位がこう変わる、といった具合に予め決まっているように見えなくもない(発生源のチャイナが仕組んだという意味ではなく)。

 モヤモーヤ……。

 笹山登生のウォッチ&アナライズ 「さらなる変異を続ける新型コロナウイルス」(www.sasayama.org/index.html/?p=199) - 『どうして同じ変異が異なる大陸で起きているのか?』 ・・・ リンク切れ

 引っ掛かっていたのはコレだー。

 『偶然ではなく必然の「収斂しゅうれん進化」 Convergent Evolutionの帰結ではないのか?』

 

 収斂進化 --- 近縁ではない生物なのに鳥の翼とコウモリの翼といった具合に同じような機能の形質(器官)が生まれる現象。

 コロナウイルスの変異は、異種ではなく同じ種内、形質レベルではなく遺伝子レベルなので、違うようにも思えるが、偶然ではなく必然の変化ならば、時限発火装置的な未知のメカニズムがあるのかもしれない。


 ウイルス自体の進化とは異なるが、ウイルスと進化というと『ウイルス進化論』という本を思い出さずにはいられない。
  ウイルス進化論 / 中原英臣、佐川峻 / 1996 / 早川書房
   ※ 元は、ヒトはなぜ進化するのか / 中原英臣、佐川峻 / 1986 / 泰流社

 その当時、遺伝と言えば親から子へ孫へと代々遺伝子が継がれていくもの、とばかり思っていたが、水平伝播(水平移動)なるものもあることを知った。
  ※ 親から子孫へ継がれていくのは垂直伝播(垂直移動)

 同世代の生物の間で種の垣根を超えて遺伝子が伝播していくのが水平伝播。そんなことあるのかい、と思ったものだが、目に見えないウイルスやプラスミド[DNA]などがベクター(運び屋)として関わっている。
  ※ 水平伝播自体は半世紀以上前から知られている

 遺伝子治療、遺伝子ワクチンで遺伝子を細胞まで運ばせるのも同様のベクター。
 うち一部は宿主の細胞の核内に入り込んで遺伝子を組み込んだり、宿主の遺伝子を外へ持ち出していく。

 ウイルスは悪いばかりではなく、むしろ悪さをするウイルスはごく一部だという。

 『ダーウィン進化論を超えて』という副題のとおり、超えようとしてヒートアップしすぎたか、
 未だ解明されていない点を断定調で述べたのが災いしたか、
 『ウイルス進化論』はフェード・アウトしていった。

 一斉に種全体が進化する ---「変わるべきときがきたら変わる」---。
 と言っても我々はリアルタイムで「新種誕生」を観察しているわけではないし、一斉に種全体が絶滅するほうが余程現実的に見える。種の絶滅ならば現在進行形で起こっている。
 一見トンデモっぽく思える「飛躍的な進化」に関しては、ウイルス進化論ではなく「今西進化論」。
 そのメカニズムは突然変異では説明できないが、ウイルス進化論ならば説明可能という主旨だった。

 『ウイルス進化論』という本、その著者(の論法?)に関しては批判的に書かれていることが多いが、ウイルスはメディアであるとか、細胞から外へ出ていくウイルスは細胞の器官(オルガネラ)であるとか、結構面白い本だった。

 今日、ウイルスが生物の進化に深く関わっていることは確かなようだ。

 遺伝子の水平伝播は原核生物(細菌)の間でよくみられ、太古の原始生命の間では高頻度で起こっていたらしい。
 「我々」哺乳類含む真核生物(細菌以外)では稀とみられていたが、どうやらそうでもないらしい。

 かつて根っこ(全生物の祖先)からキッチリと枝分かれしていた全生物の系統樹(生命の樹)も、今や水平伝播の枝が数多く加えられ、ヤドリギが生えた樹のようになっている。

  『生命の<系統樹>はからみあう』

 ウイルスと生物の進化は、今後益々興味深い分野の1つであると思う。

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ふシゼン
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