前回は元素について、同位体について記した。今回は放射線について。
放射線
放射線は、
- 不安定な原子核が別の安定した原子核に変わっていく際、発生 ・・・ 放射性同位体の壊変
- 原子核に高エネルギー(高速)の原子核ないし核子(陽子、中性子)を当てると別の原子核に分裂し、その際、発生 ・・・ 核反応(核分裂)
発生する放射線は、粒子線(粒子ビーム)や波長の短い電磁波(光)であるガンマ線。
放射性水素であるトリチウム(三重水素)の場合、β(ベータ)線と呼ばれる放射線を出しながらヘリウム3に変わっていく。
3H(=T) → 3He + β線
放射性同位体が元の量の半分になる(半減する)までの時間が半減期。
元の量がN0、半減期 T年のとき、t年後の量は、
N0×(1/2)(t/T)
y = (1/2)x、y = N0×(1/2)xのグラフは、下のページの青色、水色の曲線。
トリチウムの半減期は12.3年。
10年経てば元の量の(1/2)(10/12.3)=0.57倍。4割以上減る(変わる)。
セシウム137 137Csの半減期は30年。
10年経てば元の量の(1/2)(10/30)=0.79倍。2割以上減る。
なかなか0にはならないが、半減期が短い同位体は自然界から消えていく。
そのような中、トリチウムが自然界に存在し得るのは(天然存在比はほぼ0だが)、日々宇宙からやって来るから。より正確には高エネルギー(高速)の宇宙線が絶えず地球高層大気の原子に当たって核反応を起こして生成されるから。
だが、自然界に存在する放射性元素のみながみな日々宇宙からやって来るわけではなく、地球誕生約46億年前から現在に至るまで存在し続けているものもある。半減期が長い同位体。
例えばカリウム40 40Kの半減期は12.8億年。
あるいは核燃料として使われているウラン U(原子番号92)およびトリウム Th(原子番号90、トリチウムともナトリウムとも無関係)。
鉛やビスマスより重い元素は、みな放射性元素で自然崩壊していくが、トリウムとウランに限っては半減期が非常に長い。
トリウム 232Thの半減期は約140億年。
“燃えない”ウラン 238Uの半減期は約45億年。
“燃える”ウラン 235Uの半減期は約7億年。
ラドン Rn(原子番号86)やラジウム Ra(原子番号88)のように半減期が短くても自然界に存在していられるのは、ウランやトリウムが自然崩壊して生成されるため。
ラドン 222Rnの半減期は約3.8日。
ラジウム 226Raの半減期は1600年。
ウラン238の崩壊は、
238U …… 226Ra → 222Rn …… 210Pb …… 206Pb
ウラン235の崩壊は、
235U …… 223Ra → 219Rn …… 211Pb …… 207Pb
トリウムの崩壊は、
232Th …… 224Ra → 220Rn …… 212Pb …… 208Pb
※ 220Rnはラドンの同位体でトロン Tnと呼ばれる。半減期は約55秒。
ウランもトリウムも最終的には鉛(の同位体) 206Pb、207Pb、208Pbに変わり果てる。
ラジウム温泉、ラドン温泉、トロン温泉は放射能泉。
放射線量わずかなら かえって健康 ホルミシス。
α線、β線、γ線、
原子核が別の元素の原子核に変わっていく、つまり、原子番号=陽子数が変わっていく。
同時に質量数も変わっていくのがα(アルファ)崩壊。例えば、
226Ra → 222Rn + α線
α線はα粒子(ヘリウム原子核)のビーム(粒子線)で、ヘリウム原子核は陽子数2、中性子数2なので、その分(陽子数2、質量数4)減る。
238Uから206Pbまでα崩壊8回、235Uから207Pbまでα崩壊7回、232Thから208Pbまでα崩壊6回。
一方、質量数が変わらないのはβ(ベータ)崩壊。
陽子数は減るのではなく1増える。
質量数が変わらず陽子が増える、でも中性子が放出されるわけではない---。
何と中性子が陽子に変わって電子が放出される。この電子[線]がβ線。
おまけに反ニュートリノなるものも放出される。
以上はβ崩壊のうちβ-崩壊と呼ばれる反応。β崩壊には他にもβ+崩壊などがあるが、トリチウム、セシウム137など多くはβ–崩壊。
例
137Cs → 137Ba(バリウム) + e-(β線)
※ 以上、放射性同位体の半減期、壊変形式は理科年表など参照
α崩壊、β崩壊の後、完全に安定状態になるとは限らず、その場合、γ(ガンマ)線という光を出して安定化する。いわゆるγ崩壊。
少しエネルギー[準位]が高い励起状態からの安定化で、陽子数、質量数は変わらない。
※ 陽子数、質量数が同じで、エネルギー[準位]の異なる原子核は核異性体と呼ばれる
セシウム137の大半は、バリウム核異性体 137mBaを経てバリウムに変わるので、
137Cs → 137mBa + β線
137mBa → 137Ba + γ線
γ線より波長の長い電磁波(光)であるX(エックス)線も放射線だが、こちらは原子核ではなく高エネルギー(高速)の電子から放たれる。
透過力は、α線 < β線 < X線 < γ線。
γ線よりさらに強いのが中性子線。
中性子は通常単独では存在しないが、核分裂や核融合といった核反応の際、原子核の外へ飛び出てくる。
例えば、“燃える”(核分裂する)ウラン235に中性子 1nを当てると様々な原子核に分裂するが、うち1つは、
235U + 1n → 137Cs + 95Rb(ルビジウム95) + 4 × 1n
で、中性子4個が放出される。質量数は左辺も右辺も236。
(稼動中の)原子炉内では、核分裂で放出された中性子が別の235Uに当たって、連鎖的に核分裂が繰り返されている。
電離作用(イオン化作用)は、透過力とは逆にα線 > β線 > γ線。
透過力の強い中性子線、γ線、X線は電荷0で直接作用しないが、α線、β線は直接電子を弾き飛ばし、原子を励起させるか、もしくは+イオンに変える。
透過力の弱いα線、β線は外部から体内までは届かず、外部被曝は皮膚の「やけど」までだが、体内にたくさん取り込んで長期間留まり続けた場合(内部被曝)、生体分子や細胞が損傷(ダメージ)を受けて障害を起こす可能性が高くなる。