火山ハザードマップ
火山のハザードマップは、結構繁雑。
以下の個々について影響範囲を描画して、
- 噴石
- 火砕流・火砕サージ(火山ガスを多く含んだ熱風)
- 溶岩流
- 火山灰(降灰)
- 土石流
- [融]雪泥流
- 山体崩壊 - 岩屑なだれ
これらを巧く重ね合わせた地図が一般向け。
噴石は比較的分かりやすい。火口から数km離れていれば届かない。
※ 富士山ハザードマップでは、大規模噴火で大きな噴石の到達距離4km、中・小規模噴火で2km
火山ガス混じりの火砕流・火砕サージは、高速で斜面を流下するので、避難する余裕がなく危険。山麓において最も警戒が必要。
溶岩流は粘性が高い液体(マグマ)なので、比較的ゆっくりだが、遠方まで河川を流下し得る。
※ 富士山のマグマは粘性低め
降灰は風向きにもよるが、遠方まで広範に飛んでジワリジワリ悪影響を及ぼす。
土石流、雪泥流(せつでいりゅう)は、降灰後、降雨・融雪と絡んで二次的に大きな被害を及ぼす。
数ある火山のハザードマップのうち(個人的に)比較的見る機会が多い富士山のハザードマップが先月(2021年3月)末、17年ぶりに改定されたので整理してみた。
その前に
富士山火山史
現在、富士山は噴気が上がっているわけではないので、活火山であることを忘れて安心して(?)近づける。
最後の噴火は江戸時代の宝永噴火で、300年以上静か。火口のある宝永山も(頑張れば)登れる。
ざっと遡ってみていくと
宝永噴火 [1707]
富士山頂の南東(宝永山)から噴火
噴火 - 剣丸尾溶岩流 ・・・ 現・富士スバルライン
山頂の北から噴火
<年代推定>
937年、1033年、1083年
貞観噴火 [864-866] - 青木ヶ原溶岩流(現・青木ヶ原樹海)
山頂の北西(長尾山)から噴火 ・・・ 鳴沢村 ふじてんスノーリゾートの近く。西に大室山
古代湖「せの海」分断 ⇒ 西が精進湖、東が西湖
延暦噴火 [800-802] - 檜丸尾・鷹丸尾溶岩流
山頂の北東から噴火
山中湖誕生
足柄道通行止、箱根(東海道)へ迂回
天応噴火 [781] ・・・ 最古の文献記録 『続日本紀』
5-7世紀、噴火あり ・・・ 調査から
約2300年前 富士山山頂から噴火
縄文時代、噴火を繰り返して堆くなり、現在の形に近くなった。
古富士 ⇒ 新富士(現在)
上記以外も噴火多々あり。
追)5050年前-3900年前、富士山の未知の噴火が少なくとも6回起きていた --- 2023年、山梨県富士山科学研究所と東京大学の報告。山中湖湖底の堆積物を調査
山頂からの大噴火は約2300年前が最後とされるが、その後も山頂からの噴煙目撃記録あり。
今は噴火しそうな気配が全然ない。
一方、専門家は「いつ噴火してもおかしくない」と言う。
宝永噴火が宝永大地震の後で、平安時代の貞観年間も大地震が起きているから(こちらは噴火の後、東北地方で)、次回噴火する時も大地震の前後か、と考えてしまうが、関東大震災(1923年)の後も東日本大震災(2011年)の後も噴火していないので、結局のところよく分からない。
富士山ハザードマップ改定
改定前の従来版は2004年に作られたもの。その後、新たに得られた知見を反映させて、より細かくシミュレーション。
山梨県 富士山ハザードマップ(www.pref.yamanashi.jp/kazan/hazardmap.html)
ページの一番下が統合マップ。
静岡県 富士山火山防災対策(www.pref.shizuoka.jp/bousai/fujisanbousai.html)
下の2つの図は『報告書概要、報告書、報告書説明資料』の『資料1 富士山ハザードマップの改定について(概要)』から引用。分かりやすくまとめられている。
内閣府 富士山火山防災対策協議会HP(www.bousai.go.jp/kazan/fujisan-kyougikai/)は、まだ従来版。
富士山の噴火は、過去2000年、山腹から場所を変えて噴火しているので、次回噴火する時もどこから噴火するか分からない。
ただ、大規模噴火(噴出量2億m3以上)の恐れのある火口範囲は、
北西(長尾山) - 富士山頂 - 南東(宝永山)
で、改定前から大きくは変わっていない。
中・小規模噴火の恐れのある火口範囲が北東へ、南西へ拡がった。
※ 対象年代を拡げて(従来は過去3200年、今回は過去5600年)、新たに発見された火口も追加
2014年、富士山火山地質図改定
火砕流の到達範囲は、改定前、山頂を中心とした円に近かったが、改定後、より地形が反映されて範囲も北東へ、南西へ延びた。東富士五湖道路の一部が引っ掛かっている。
また、大規模噴火の溶岩流噴出量の最大想定が宝永噴火の7億m3から貞観噴火の13億m3に変わったため、溶岩流の到達距離が長くなった。
※ 以前は宝永噴火が最大で、貞観噴火も同程度とされていたが、その後の研究で貞観噴火は約2倍と判明
もしも山頂の北~東で大規模噴火が起これば、
- 桂川(下流は相模川)を大月、上野原、相模湖(相模原市)まで
- 鮎沢川(下流は酒匂川)を山北、南足柄、開成、松田、大井、小田原まで
山頂の南~西で大規模噴火が起これば、
- 富士川河口の静岡市(の清水区)まで
- 黄瀬川(下流は狩野川)を沼津、清水町まで
溶岩流が到達する、とのこと。
東寄りの火口から史上最大規模の大噴火が起こった場合、酒匂川まで冷え固まることなく流れてくる---。
実際に起こる可能性は低いが、降灰 - 土石流ならば宝永噴火で起こっている。
これまで被害(降灰除く)が及ぶ可能性のある自治体は、
- 山梨県富士吉田、鳴沢、富士河口湖、山中湖、忍野、西桂、都留、身延(の下部)
- 静岡県富士宮、御殿場、小山、富士、裾野、長泉、三島
だったが、さらに12市町増えた。
富士山では先月(2021年3月)末、雪崩発生のニュースもあった。
土石流っぽいが、雪代(ゆきしろ)と呼ばれている。またの名はスラッシュ雪崩。
噴火ではないが、いわゆる雪泥流。