『ロウソクの科学 / マイケル・ファラデー著、矢島祐利訳 / 岩波文庫 / 1933』。
原本は『The Chemical History of a Candle 1861』。
ファラデー先生の講義内容をウィリアム・クルックス(クルックス管(真空放電管)のクルックス)が編纂して、のちに翻訳された本。
買ったものの……
この本は学生だった頃、すぐ読めそうかなと思って買って読み始めたものの第2講の途中まで読んだ後、そのまま本棚に寝続けた本。
目の前で実演しているのを見ていれば、分かろうが分かるまいが話が進んでいくが、文字を追っているだけだと正直言って読みづらい。
化学の実験が好きな人か多少なりとも化学について素養があって実験装置をイメージできる人でないと面白くないかもしれない (一応図もついているが) 。
でも本の中の実験のいくつかは、理科の時間に行われているはずだから、真面目に実験しながらその合間に読んでいれば難なく吸収できたはず。
TOO LATE。
20数年経ってロウソクの炎と睨めっこすることが増えたから、また本棚から取り出して読み始めてみたが、第4講まで読み進めてそのまま……。
になりかけたが、奇遇にもリチウムイオン電池を開発した吉野彰氏が『ロウソクの科学』に言及して「売り切れ」と話題になったから(これをノーベル賞効果と言います)、鞭打ってラストスパート。
※ ノーベル賞の共同受賞者は、ジョン・グッドイナフ氏(この方97歳)、スタンレー・ウィッチンガム氏。
「ほとんどの人が途中で頓挫するんだろうなあ」。
文庫本100ページちょっとで、内容は決して難解ではないにもかかわらず、読み終えるのに20数年かかった。
- 少年時代読んだ吉野彰氏、大隅良典氏 ⇒ ノーベル賞受賞
- 読みかけたまま ⇒ まだ平和賞があるさ
以前ノーベル賞を受賞した白川英樹氏監修の
『「ロウソクの科学」が教えてくれること / マイケル・ファラデー著、尾嶋好美編訳 / サイエンス・アイ新書』
が実験の写真が多く盛り込まれているということで、読みやすそう。
本の内容
『ロウソクの科学』の登場人物はファラデー先生とアンダーソン助手。
ロウソクの燃焼を通じて主に大気(空気)の性質について理解を深めるという内容。
まとめると
第1講 ロウソクの種類、製法
第2講 ロウソクの燃焼、蒸気(水)の発生
第3講 発生した水に含まれる水素
第4講 発生した水に含まれる酸素
第5講 大気(空気)に含まれる不活性な気体 - 窒素、炭酸ガス(二酸化炭素)
第6講 炭酸ガスに含まれる炭素
といった具合。
第3講が一番すらすらと読めた。
電気分解に用いられているのがボルタ電池(電極:銅と亜鉛)。
第1講、第6講では日本のロウソクもとりあげてくれている。
『大気(空気)とは何か』とか『これから吾輩が大気を分解してみせませう』といったタイトルのほうがしっくりくるが、炎や煙が出たり、霧や靄が出たりしない限り、日頃接している大気(空気)の成分について思い巡らしてみたり、ましてや分離してみようなどとは思わないから、やっぱり『ロウソクの科学』でいいのか。
講義の中身のみならず、筋道立てて緻密に説明していく過程が、科学者を志す人の手本となるから(一般人でもある程度必要だと思うが)、多くの人(先生)が推薦するのであろう。
それもそのはず著者となっているファラデー先生は大の偉人。
『アシモフの科学者伝(アイザック・アシモフ)』には「磁気を電気に変えた男」として紹介されている。
製本工からハンフリー・デイビーの助手になり、その後、実験、実験、発見の連続。
※ デイビーも大化学者。電気の力を用いて、いわゆる電気分解を行ってカリウムなどいくつもの元素を分離した。
デイビーのあとを継いだファラデー先生は、電気から磁気にも関心を抱き、磁石をとりまく力 -触れていないのに作用する力- について「場」という概念を持ち込んだ。電磁場の「場」。
化学の枠を超えてしまった。
磁束の変化が電気を生む、いわゆる電磁誘導を発見。
連続的に電気を起こす装置 = 発電機を発明。
ついでと言ってはなんだが、変圧器も発明。
知ろうが知るまいが、今日我々は毎日ファラデー大先生の影響の下、暮らしている。
Everyday Faraday。
ファラデー大先生の一連の講義は、ロウソクの燃焼と我々の呼吸が一致していること、食物(栄養分)が我々の体内でロウソクの役割を果たしている等の説明がなされて終わりになる。
ロウソクの炎と睨めっこしながら思ったこと === 「我々はロウソクみたいなものだ」
ちょっとつながった。
諸君のあらゆる行動はロウソクの炎のような美しさを示し、諸君は人類の福祉のための義務の遂行に全生命をささげられんことを希望する次第であります。
マイケル・ファラデー Michael Faraday