読書の秋、1年で最も科学に関心が向く時期……でしょうか。
「ノーベルウィーク」と言いたいところだが、授賞式など一連の行事が行われる1週間が「ノーベルウィーク」だから少し違う。
今年(2020年)の受賞テーマは、
生理学・医学 --- C型肝炎ウイルス。
物理学 --- 高密度天体。
化学 --- ゲノム編集。(あれっ、生理学・医学ではないのか)
ちなみに去年は、
生理学・医学 --- 細胞が酸素濃度を検知するメカニズム。
物理学 --- 宇宙論 + 太陽系外惑星。
化学 --- リチウムイオン電池。日本人受賞で『ロウソクの科学』の絡みもあって当ブログでもとりあげた。
科学分野に広く通じている人でなければ、ノーベル賞受賞前から知っている先生より、受賞してから初めて知る先生のほうが断然多いと思うが、今年の物理学賞受賞者はロジャー・ペンローズ教授だった。
※ 共同受賞者は、ラインハルト・ゲンツェル氏、アンドレア・ゲズ氏
日本でも大変有名だったホーキング博士(故人)の『ホーキング、宇宙を語る』を読んだ後、その勢いで(ジャケット買いみたいなものだが)『時空の本質』というホーキング博士とペンローズ教授の共著を“手にとった”のが20世紀の終わり頃。ホーキング博士の師がペンローズ教授なのでした。
今回、ニュースを見ていてペンローズ教授(89)に驚いた。
そりゃ年をとるわけだ。
スケールが大きすぎてノーベル賞のほうが後から教授に追いついた感がある。ホーキング博士にいたっては賞が追いつかなかった……。科学界最高の栄誉とされるノーベル賞だが、こういうこともある。
なお、本は“手にとった”のであって、読み終えたとは言えない(一応読みかけということで)。
超高密度天体であるブラック・ホールについて書かれているので、引かれはしたが……。
子供の頃、ブラック・ホールはSF(サイエンス・フィクション)の世界だった。
吸い込んだものはどこへ行ってしまうのか---その当時多くの人が抱いたであろう疑問。
噴射するホワイト・ホールがあるらしい……。タッグを組んでいたのはペンタゴンだったが。
SF世界といっても100%フィクションというわけではなく、ブラック・ホール(その名称は別として)の存在可能性については20世紀前半から指摘されていた。
※ インド生まれのチャンドラセカール氏など。
1960年代以降、ブラック・ホールの理論が着々と出来上がり、あとは観測されるのを待つのみ。
吸い込むばかりと思われていたブラック・ホールが放射することを示したのがホーキング博士。
エネルギー(X線やガンマ線)を放射し、質量を失い、最終的には蒸発する。
ブラック・ホールは、光さえも吸い込むので、間接的にしか観測できないが、1994年、おとめ座 M87で高速回転している超大質量の天体が観測され、ブラック・ホール「初観測」と報道された。厳密には確証の一歩手前だったが、1990年代以降、ブラック・ホールの存在は揺るぎないものとなった。
※ ハッブル宇宙望遠鏡打上げが1990年
そして昨年(2019年4月)、史上初めてブラック・ホールが撮「影」された。
おとめ座 M87の超大質量ブラック・ホールは、太陽の質量の65億倍!。
ただ、ブラック・ホールに興味を抱いたから十分理解できるのか、といったら至極難しい世界。
非ユークリッド空間
相対性理論
アインシュタイン方程式(重力場方程式)
テンソル
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理解を阻むハードルがいくつもある。そんなわけで『時空の本質』は、未だ(最期まで?)十分理解できないが、
ブラック・ホールには外から見ることのできない領域があり、その中に特異点が存在することは“何となく”分かった。
※ 領域境界が「事象の地平線」で、これより奥、光さえも脱出不能
現実に近い仮定であっても特異点が存在することを証明したのがペンローズ教授。
特異点では超高密度どころか密度∞、時空湾曲率∞(大きさ0、重力∞)で演算不能。
そうなるとさすがの科学者も哲学者に化して(戻って)、答え(統一見解)が出なくなる。
ちなみにホーキング博士が自称実証主義者で、ペンローズ教授が自称実在主義者。
特異点なるものは理論上、ブラック・ホール(の中)の他、
・ 遠い過去(宇宙の始まり) --- ビッグバン
・ 遠い未来(宇宙の終わり) --- ビッグクランチ
にもある(らしい)。
ただ、その理論(一般相対性理論)もまた、古典理論がそうであったように破れてしまう可能性がないわけでもない(ようだ)。
難しすぎます。
ともかく宇宙の果てはどうなっているのか、という多くの人が抱く謎について答えてくれそうな科学者がホーキング博士とペンローズ教授であった。